石川五右ェ門
      ISHIKAWA GOEMON


 1    キャラクター誕生のいきさつ
 
 
五右ェ門のモデルは新撰組の沖田総司。五右ェ門を出したのは原作者初めての海外旅行で、アメリカのサンティエゴで開かれたコミック・コンベンションに行った時の出来事がきっかけとなった。たまたまSUSHI BAR(寿司屋)で隣になった老夫妻にサインを頼まれルパンと不二子を描いたところ、年配の女性の方に「オリエンタル(東洋的)ではない」といわれたのがヒントになったという。「ルパン」に日本的な泥棒を入れたいと思った際「鼠小僧次郎吉」にするか「石川五右衛門」にするか迷っていたが、手塚治虫が昔、探偵少年の漫画で「マウス・ボーイ」という鼠の敵キャラを登場させていた為「五右衛門」になった※1。又「忍びの者」(1962年の日本映画)という映画を観た事を思い出し「五右衛門がカッコいい」と思ったことも影響している。キャラとしては原作者が締め切りが迫って苦し紛れに出したもので、「清潔感のある東洋人」というイメージのアイデアを出したのは、双葉社で「ルパン」連載開始当時の編集長だった清水文人氏である。 
 
五右ェ門が原作に初登場したのは昭和43年の週刊漫画アクション4月4日号だが、それ以前の増刊漫画アクション(昭和43年1月8日号)にも「ウエスタン侍」という漫画に五右ェ門そっりの主人公「二天座鬼土(にてんざ きど)」(※画像参照)が出てきている。これについて原作者は「これは五右ェ門の前身ですね、きっと」と認めている。
 

 2    名前表記の変遷
 
 
当初は五右ェ門の名前表記は一定していなかった。原作初表記は「五エモン」(タイトル一部には「五右衛門」とある)。現在は「五右ェ門」が公式表記。ただしアニメ公式では現在「五ェ門」になっている。ここでは「原作は全ての後続作品の原点」であることを尊重し「五右ェ門」で表記した。名前の表記については過去にはアニメでもバラバラであった。大きく分けると
 
 
PILOT FILM・・・「五右ヱ門」
TV第1シリーズ・・・「五ヱ門」
TV第2シリーズ/PARTV・・・「五右ェ門」
テレビスペシャル・・・「五ェ門」
 
 
が基本採用されている。しかし上記中にも例外箇所がある。これらの矛盾の理由としては、当時の時代性がおおらかで大して表記を重視されていなかったこと、スタッフの好みに任されていた場合も多かった事がある。また設定書のラフ書きの略字が、そのまま本編でも使用されたと思われるケースもある。例えばTV第1シリーズの「五ヱ門」は、キャラ設定書と同一表記である。(上記の詳細は「五右ェ門名の作品別一覧表」参照)
 
このように、以前はシリーズごとに統一性がなかった「五右ェ門」表記であるが、現在、アニメでもひとつに統一されたのは主に営業的な理由だろう。キャラクターの著作権による利益の問題や、購入者や視聴者からの問い合わせ・クレーム対応の懸念を避ける為だとも考えられる。アニメ公式が「五ェ門」という表記を選んだのは、おそらく商標的に小さな子供でも読めるようにとの考えだろう。

 3    原作とアニメ違い〜顔と性格
 
 
アニメの五右ェ門はエキセントリックな性格だが、原作ではやや過激な行動はあるものの、性格的には穏やかで朗らかなお坊ちゃんタイプである。性格イメージとしては「書生」らしい。しかし、五右ェ門ほど原作から分岐し、性格・容姿ともに別の個性を発展させた例は珍しいだろう。原作者もこれについては
 
『アニメの方ではかなり変わっちゃったけど、ホントはもっと坊ちゃんぽいんだよね』
 
と語っているが、色紙などに五右ェ門のイラストを描く場合、今ではアニメ的なデザインの五右ェ門を描くこともたまにあるようである。アニメで原作に充実なキャラ設定は自身が監督した劇場版「DEAD OR ALIVE」または「ルパン三世PARTV」(初期)その企画以前に立ち上がった「ルパン8世」の五右ェ門だろう。
 

 4    原作とアニメの違い〜五右ェ門と女性関係
 
 
アニメでは不二子に騙されてから不二子不信・女を避けるトラウマになったような描かれ方になっているが、原作では五右ェ門と不二子との間に特にそういったエピソードはない。女性に対しても誠実であるがゆえの潔癖さをみせるといった一面はあるが、女性不信から女や不二子を避けるようになったという性格・設定もない。
 
アニメでは女性の裸を見るだけでもポッと顔を赤らめているが、原作では仕事に必要とあらば人妻を布団に押し倒すのも躊躇しない性格で、剣術同様いささかの迷いもなく一直線に切り込んでいく。(ただ原作でも、気持ちはその気がなくとも身体が男として反応してしまい、それに困って赤くなるといった事はある)
 
原作では女嫌いではないが、特に好んで女性を求めるということもなく、例え好きな女性を相手にした時でもどこか冷静で、自分ではあまり女性にもてないタイプだとも思っている様だ。好みのタイプは澄んだ目をした女性。その他ルパンに「本当は不二子に惚れてるんじゃねえのか」と勘ぐられるシーンがある。アニメでは逆に女に惚れっぽいという性格付けがされている場合も多い。これは劇場用「カリオストロの城」で可憐な少女に見惚れたのを見つかって照れて赤くなるというエピソードが人気を呼んだため、他のアニメ公式話がそのコピーを重ねたというのが要因だろう。

 5    剣について
 
 
原作とアニメの大きな違いには、五右ェ門の持つ剣の名称と由来がある。原作では初期には竹光を使用、後に隕石を用いた「流星」(りゅうせい)を使っているとされている。これは原作者が少年期に観たアラン・ラッド出演の西部劇映画の中に出た「どんな硬い物にも刺さってしまう隕石で出来たナイフ」が後に五右ェ門の剣のヒントになったのではないか、ともいわれている。また「乱射される銃弾を次々に斬りおとす」という設定は、原作者が西部劇と時代劇が好きで、その異質な物同士を掛け合わせるのが好きだったことから発想を得たようである。
 
 
『刀が拳銃に負けるというのは、なんとなく歯がゆいところがあって。なんかで勝つ方法はないだろうかって考えた記憶はありますよ。拳銃に勝つ方法っていうのは、実際にはできないんだろうけどさ。まあ、マンガならできる、というね』
 
 
これが「乱射される鉄の弾丸を真っ二つに叩き斬る」という五右ェ門の剣豪としての腕前と、後の剣そのものの設定に繋がったのだろうと思われる。原作では最初その剣自体には特に設定はなく「竹光」であったという話も存在していることからも、原作者は「拳銃に勝つ」事は剣より五右ェ門の腕前によるものだという意識が強かったと思われる。「斬鉄剣」がなければ殆ど無力になってしまう、一部のアニメ設定の彼とは随分キャラの捉え方が違っている。
 
アニメでは「虎徹・義兼・正宗」を溶かして打ち直した「斬鉄剣」を使用しているが(※1)、テレビスペシャル「燃えよ斬鉄剣」の設定ではその由来は五ェ門の先祖が発明した特殊合金であり、アニメ企画書段階では国定忠治の遺品「小松五郎良兼」だった。 よくきかれる「こんにゃくが切れない」というのはTVアニメ第2シリーズ「空飛ぶ斬鉄剣」の独自の設定であり、原作や他のアニメルパンの話とは関係ない。また特にこんにゃくだけでなく、アニメでは五右ェ門の斬れない物は沢山登場している。剣に曇りが出ると不吉なことが起きるというのも、原作にはないアニメ独自の設定である。これらの食い違いは「ルパン三世」という作品自体が、基本である設定以外は何でもアリの1話完結型パラレル設定であることによる。
 

 6    趣味・嗜好性の設定
 
 
登場時から「アナクロ」「日本的」というニュアンスを出す為か、五右ェ門の趣向性はズバリ古来の日本趣味である。原作のごく初期では煙草を吸おうと煙管を取り出し、ライターで火をつけようとした次元を断り火打石を使用。椅子を勧めたルパンにも「洋風はスカン!」と椅子を真っ二つにしていた。武道では空手を使う。その後は幾分柔らかくなったものの、薬草を処方する、将棋をさす、花札を楽しむなど、アナクロ・日本的な趣きは変わらない。
 
アニメでは俗にラジオ好きともいわれている。これはTVアニメ第1シリーズ第5話にラジオを聴くシーンが登場したのを受け、TVアニメ第2シリーズ第1話にもそのイメージが引き継がれた刷り込みによるものだろう。しかしTVアニメ第1シリーズでは特に五ヱ門がラジオ好きだったというよりは、ルパンも次元も同じラジオを聴いていた訳なので、もしこのシーンを見て「五ヱ門がラジオ好き」というなら「ルパンや次元もラジオ好き」と言ってもいいはずである。おそらく「五ヱ門にラジオ」という取り合わせの印象が強かった為に定着したイメージ付けだろう。
 

 7    アニメ・書籍用設定
 
 
原作では「ディティールを一切もうけない」のを主義としているためすべてにおいて「曖昧」「その場限り」または「不明」こそが公式設定である。だからこそ、原作で繰り返し使用された設定は意図的とみて尊重すべきだろう。原作者はむしろ素材(キャラ)そのものの基本性格や人間関係の方に拘るタイプである。
 
逆にアニメやアニメ関連書籍ではその「曖昧さ」を埋めるべく、細やかな設定が一部になされているが、これも時代や媒体によって異なり、何時の間にか変わったり消えたりした設定もある。
 
※アニメ・書籍用の細かいデータは一覧表で別枠にて順次紹介予定。
 

 8    声優
 
 
◇メイン声優◇
 
井上真樹夫
「ルパン三世(テレビTV第2シリーズ)」「ルパン三世 PARTIII」「ルパン三世「劇場版『ルパン三世』(俗称『ルパン対複製人間』『マモーとの対決』)」「カリオストロの城」「バビロンの黄金伝説」「くたばれ!ノストラダムス」「DEAD OR ALIVE」「生きていた魔術師」「GEEN VS RED」「ルパン三世VS名探偵コナン」 テレビスペシャル(1989年〜2010年)  その他下記以外の本編・CM・ソフト・アミューズメントメディア等
 
大塚周夫
「ルパン三世(テレビTV第1シリーズ)」
 
浪川大輔
テレビスペシャル(2011年〜) 2011年10月以降のCM・ゲーム・パチンコメディア。
 
塩沢兼人
「ルパン三世 風魔一族の陰謀」(OVA)
 
納谷悟朗
「〈PILOT FILM〉(パイロットフィルム)シネマスコープ版」
 
小林修
「〈PILOT FILM〉(パイロットフィルム)シネマTV版」
 
 
 
◇その他配役◇
 
 
堀井真吾
「ルパン3世」(ルパン三世 D2 MANGA)
 
影山ヒロノブ
「 ルパン三世 I'm LUPIN」(舞台ミュージカル)
 
 
 

 9    声優・スタッフから五右ェ門へのコメント
 
 
井上真樹夫
「小生の場合は、まさに五右ェ門が自分か、自分が五右ェ門か?と思うほどなのでござる。まずその一、葉隠れ的側面に於て・・・ただし小生は、やや逃げ隠れ的・・・。その二、その哲学的側面に於て・・・ただし小生の場合は、徹夜学的・・・。その三、その沖田総司的側面に於て・・・ただし小生、やや起きて掃除的・・・(笑) (山田「ホントにウリ二つといっていいね」) ただし、違う点もあるのですゾ。まず第一に、小生はフンドシを着用しません。もっぱら仏蘭西エミナンスのブリーフであること。第二に、小生は五右ェ門のごときクサレ草履を着用せず、もっぱら伊太利亜マレリー社の靴を愛用していること。ファッションについては、さっき言った通り、かなり違っているようですね。しかし、趣味となりますと、小生のアナクロ的側面と五右ェ門とは、かなり共通項でくくれると思うのです。例えば「古書渉猟癖」「安物陶磁器収集癖」などなど。(中略)それと、小生こと石川五右ェ門、無口で一人だけアンチック人間なのが好きなのです。だけど、無口ってのは、役づくりが至難である(笑)」
 
 
大塚周夫
「実は,初代の五右ェ門は僕だったんです。だいたいこの声だから悪役が多いんだけど,あの時は珍しく二枚目だったから良く覚えていますよ。懐かしいネ。」
 
納谷悟朗は最初パイロットフィルムの時には五右ヱ門役だった。それを「銭形がやりたい」と自ら言って来たという。理由は「五右ヱ門は台詞が少ないから」。
 
 
宮崎駿
「……なんでも「道」にしてしまう個人的人格形成への願望とやらがあるようだが、しょせんは斬れ味の一瞬の充実が大好きで、ときとしてルパンと組む人物としたほうがよさそう。」
 

 10    注釈
 
※1
出典本収録ママの情報を記載。手塚治虫の描いた漫画には1955年7月〜8月号「少年クラブ」に掲載されていた「ケン一探偵長」があり、その中で「怪盗マウス・ボーイ」という作品が存在する。原作者が指して言っているのはこの事かもしれないが、確定する出典情報がない為、補足として記した。
 
※2
劇場版パンフレットルパン三世(ルパン対複製人間)・くたばれ!ノストラダムス・DEAD OR ALIVEでは『虎鉄・村正・正宗を打ち直したもの』と記されている。

 11    出典・参考文献
 
 
コミック入門〔1968年10月1日初版発行/双葉社〕
アニメージュVOL.17 11月号〔昭和54年11月10日号/徳間書店〕
バビロンの黄金伝説〔東宝 映画パンフレット〕
ルパン三世名場面集PARTU〔日本テレビ刊読売新聞社発売〕
ルパン三世公式OFFICIAL magazine WEEKLY漫画アクション8月19日増刊号〔双葉社〕
モンキー・パンチ ザ・漫画セレクション@ 幕末ヤンキー〔株式会社講談社〕
100てんランドアニメコレクション4 ルパン三世PART-1〔双葉社〕
双葉社MOOK(62)レジャー&ホビーシリーズ(21)アニメコレクション ルパン三世[ルパンVS複製人間]〔双葉社〕
2007年「モンキー・パンチ原画展―ペンとデジタル―」インタビュー
WEEKLY漫画アクション5月25日増刊号「モンキー・パンチ責任編集ルパン三世」〔双葉社〕
手塚治虫の全て〔http://www.phoenix.to/index.html〕
Wikipedia
 
 
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