原作とアニメになった銭形で最も違うのは性格設定である。原作の銭形のイメージ・モデルはハード・タッチの「ディック・トレイシー」だが、テレビアニメ第2シリーズ(新ルパン)でのモデルはギャグ・タッチである「ピンク・パンサー」のクルーゾー警部である。アニメではルパンに「とっつあん」と呼ばれるが、原作では新作以降に「銭さん」という愛称が用いられている。「とっつあん」は親子関係を思わせるような親しみを込めた愛称、原作では親しみの中にも対等なライバル関係を思わせる、敬意をこめた「さん」付け、というところにも原作とアニメの人間関係の違いが伺える。
原作者はアニメを始めとするほかの媒体では、あまり口出しせず違いを楽しむタイプであるが、アニメ化された銭形については中央公論社から出た「愛蔵版ルパン三世」の巻末で
『彼はかなり頭の切れる男として描いたつもりだったが、アニメーションになった銭形警部はただの狂言回しのバカになってしまった。子供にまで「バカ銭」と呼ばれる始末である。彼の名誉の為にも本編でぜひ彼の明晰な頭脳を確認して頂きたい』
と、かなりの不満を述べている。それでもアニメ化された第1シリーズではOPでルパンが「警視庁の敏腕警部。オレを捕まえるのを生きがいとする、オレの最も苦手なとっつあんだ」とナレーションするなど原作の意向が尊重されてはいたが、視聴率苦戦の煽りを受け銭形もほかのキャラと同様に後半はやや子供向けにコミカライズされ、更にテレビアニメ第2シリーズでは本格的な「子供向け仕様」になりギャグ・メーカーとしてキャラづくりをされた。
銭形の扱いについては自身が監督した劇場版『DEAD OR ALIVE』で脚本を担当した柏原寛司も「原点に戻して、かっこいい銭形にしました」と、かなりの拘りがみられる。尚、原作者は自身以外がつくったアニメ銭形については「宮崎駿さんの銭形が一番原作に近い」としている。原作者が何故ここまで銭形に拘るかというと「脇役を大事にする」という論理があるからである。
『みなさん主役のほうにいくんだけどね。脇役のほうがだいじなときが多々あるんですよ。いい脇役だとストーリーは広げやすいですよ。脇役がいま一つだと、制約ができてしまう。ストーリーを広げにくいよね。(中略)脇役が素晴らしいときっていうのは、描いていてもノッてくるんだよね。そうすると主役がいきてくるんだよね。(中略)ルパンのライバルだからね。銭形の方が描きやすいっていうか・・・・・・銭形のほうに気持ちが入ってるから、ストーリーが作りやすいってのがあるんだよね』
アニメではルパンを逮捕するだけが生きがいで追いかけ、ルパンが死んだと思うと人目をはばからずに号泣する演出が多いが、原作では銭形はルパンを殺しても構わないと言い切る程にクールである(自身も警官としての使命のためなら、いつでも死ぬ覚悟が出来ている)また正体不明のルパンの素顔を暴こうと狂気にも似た執念をみせ、これにはルパンが本気で恐れるほどである。変装・武道にもたけ、「鬼警部」の異名をとり、射撃の腕は警視庁一の腕前である。しかし、一方では処刑室に送ったルパンに対して
「この世で天才という言葉をおしみなくおくれるのはお前だけだったョルパン」
と一人呟き敬礼をし、微かに涙を浮かべてもいる。
この銭形とルパンとの関係については原作者は自ら監督した映画「DEAD OR ALIVE」パンフレット上でも述べている。
『ボクは彼をあんまりナニワブシにしてしまうことには抵抗があったのデス。今までのは(※アニメのルパン)ルパンに対する敵愾心よりも仲間意識みたいなものがあんまり強すぎるので、それをなんとか壊したかった。だからラストもルパンと銭形のエンドレスのイタチごっこみたいなのはヤメました。』
ルパンに対する奇妙な友情を周囲には決して悟らせないのが、オリジナル銭形なりの美学なのだろう。なお2011年、アニメの方でも声優が交代し、キャラが若返ったのを機に、原作に近い、クールで敏腕なイメージの銭形警部で描かれた作品、シリーズが増えつつある。
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