1    1995年(平成7年)3月20日 月曜日  日刊スポーツ


 2    62歳、脳出血で倒れ入院1カ月 意識戻らないまま
 
 
アニメ「ルパン三世」のルパンの声やクリント・イーストウッドの吹き替えで知られる声優の山田康雄さん(本名同じ)が19日午前6時35分、脳出血のため東京都大田区の都立荏原病院で死去した。62歳だった。山田さんは先月先月17日に都内の自宅で倒れ入院したが、最後まで意識が戻ることなく帰らぬ人となった。
 

 3    家族も看取れず
 
 
「ふ〜じこちゃ〜ん」という軽妙なルパンのセリフはついに帰ってこなかった。山田さんは先月17日に脳出血で倒れ入院。以来、所属劇団「テアトル・エコー」の仲間の見舞いも断って治療に専念したが、意識は一度も戻らなかった。紀美子夫人(50)長女夏織さん(27)長男浩康さん(23)が毎日病院に詰めたが、18日夜に家族が引き揚げた後に容体が急変、臨終に間に合わなかった。
 
遺体は東京・大田区の自宅に戻ったが、紀美子夫人はショックのため取材陣の前に姿を見せなかった。関係者によると、「本当なら一度でも意識が回復して話せたら」と話していたという。一昨年にカリウムが欠乏する病気にかかり、歩くのがおぼつかなくなり入院したことがある。今年1月に石油会社のCMで吹き替えをした際にも、体調が悪くイスに座ったままだったが、プロらしく声だけは元気いっぱいだったという。
 
1971年(昭46)に日本テレビで始まった「ルパン三世」のルパンや、クリント・イーストウッド、ジャン・ポールベルモンド、ピーター・フォンダの吹き替えでその独特のニヒルなセリフ回しで茶の間に親しまれた。4月公開予定のアニメ映画「ルパン三世 くたばれ!ノストラダムス」では、山田さんの入院でものまねタレント栗田貫一(37)がルパンを務める代役劇があったばかりだった。
 

 4    スター誕生司会
 
 
父親が日本銀行勤務という堅い家族の一人息子に生まれ、名門日比谷高から早大文学部に進んだ。その後、劇団「民芸」研究生となり、58年にテアトル・エコー入団。「日本人のへそ」など井上ひさしの初期作品の主役を務めた。声優としてはテレビ映画「ローハイド」の牧童ロディをはじめ、イーストウッドの声を30年以上にわたり吹き替えた。また、中尾ミエ(48)とコンビを組んで日本テレビ「お笑いスター誕生」の司会を務め、とんねるず、B&B、おぼんこぼん、コロッケなどが、山田さんと中尾の息の合った進行で自信をつけ、また、「テアトル・エコー」の仲間、熊倉一雄は「長い間一緒に仕事をしてきた戦友に亡くなられ、哀惜の極みです」と言うのがやっとだった。
 

 5    クールな方でした
 
 
「ルパン三世」で峰不二子の声を担当している増山江威子さんの話
 
私は「ルパン三世」のパート2からですが、それでも20年を過ぎました。山田さんはルパンそのもので、私は山田さんのルパンについて20年をやってきたようなものですから、もうショックです。先日、映画で、栗田貫一さんが代役でルパンをやり、よく頑張っていらっしゃったけど、やっぱりルパンは山田さんそのものです。吹き替えの仕事場でも、ベタベタすることなく、クールな方でしたが、今年1月にCMの吹き替えで、体調を悪くされてイスに座って一緒に仕事をしたのが最後の仕事でした。
 

 6    吹き替えの草分け
 
 
映画評論家・品川雄吉氏の話
 
洋画の吹き替えの草分け的存在で、テレビの洋画人気を定着させた功績は大きい。ちょっとバタ臭いところもあって、それが吹き替えに見事に生かされていた。クリント・イーストウッドやベルモンドは本当に安心して聞けたが、今後はだれが吹き替えをやっても、しばらくは違和感が出てしまうだろう……。最近は城達也さんといい素晴らしい声優さんが亡くなり、とても残念だ。
 

 7    山田康雄(やまだ・やすお)
 
 
本名同じ。1932年(昭7)9月10日、東京生まれ。日比谷高時代に野球部に入っていたが早大文学部英文科で演劇グループを結成、演劇界に身を投じた。58年からテアトル・エコーに所属。舞台だけでなく吹き替えの草分け存在として活躍した。紀美子夫人と子供が二人。
 

 8    通夜・葬儀日程
 
 
通夜は22日午後6時から、葬儀・告別式は23日午前10時から、いづれも東京都目黒区中目黒3の1の6の正覚寺敷地内「実相会館別館」で。喪主は妻・紀美子(きみこ)さん。
 





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