2006/09/26    声優事務所の歴史と内情 屋良有作さん
 
 
 
土曜講師が「あのさぁ・・・」と考え深げに授業前に話し出した。
 
 
「こないださ、81(エイティ・ワン)プロデュースに所属している声優が突然事務所をやめたんだ。移籍する事務所を探すまでの間、声優活動を休業するとか言ってた。
 
でさ・・・オレが不思議だったのは、大体事務所を移籍する奴ってのは事務所に仕事を貰えないから移る、ってのが多いのさ。だけど、そいつは売れてるんだよ。しかも81といえば今声優業界で向かうとこ敵なしの大手だろ。
どう考えても、そこよりいい事務所はないはずなんだよ。そいつだけじゃない。あそこで今仕事ある奴が次々やめてる。これは、何か事務所にあったか、それともこれから起こる予感のような気がするんだが・・・」
 
 
 
 
81は内田直哉さんの回でも話したけど、業界最大手。
 
大概、声優事務所というのは得意分野というのが決まっていて
 
 
洋画には弱いがアニメには強いとか
 
CMしかやらないとことか
 
ゲーム中心のとことか
 
 
色々ある。
事務所に入れば何でも、どんなジャンルでも仕事があると思ったら大間違い。それは制作現場とのしがらみや、営業の力量に掛かっているのだ。
 
ところが81に限っては例外的に何でも強い。声優になりたい、という人は誰でも憧れの事務所として口にする、野球でいえば、ちょいと大リーグな気分の事務所である。
ところが大きくなりすぎて仕事を貰える人と貰えない人と両極端。大きければいいというもんでもないのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ここで、有名どころの声優事務所とその歴史について講師が語った。
 
「元々、声優というのは俳優生活協同組合、要するに俳協の連中が最初舞台とかドラマとか、主にそっち中心で活動してた。だが、段々大きくなってくると次第にデスクと意見の合わない奴や仕事のない連中といった不満分子というのが出てくる。
 
そこでそこを飛び出した連中が作ったのが青二プロダクションだ。
 
 
『こっちは声の仕事で売り出すことにしましたから、顔出しの多いそっちとは被らないからいいでしょう』
 
 
というわけさ。青二は事務所を大きくする為に、当時人気だった役者を次々と引き抜いていった。あの事務所は保守的な体質とかいわれてるが、実際はかなり強行なやり方をするんだ。そうやって昔、東映アニメは青二が仕切ったりして大きくなっていったんだ。
 
ところが大きくなると、これまた青二の中でも仕事のある奴とない奴、デスクに不満をもつ者が出てくる。そういった連中がつくったのが、ぷろだくしょんバオバブだ。ところが、こっちは青二と同じ声のプロダクション。これに腹を立てた青二は
 
 
『バオバブの声優を使うならウチからは声優を出さない』
 
 
と制作現場に通達した。一時期、あの事務所同士は犬猿の仲だったんだ。
 
そのバオバブも大きくなってくると、これまた不満分子が出てきて次々人がやめてった。そして1981年にそのやめた人間が集まって出来たのが81プロデュース
あそこはNHKとの繋がりが深くて、そっち関係のナレーションや声の出演が主でアニメや外画はそんなに強い方じゃなかった。
 
ところが、以前東映とパイプのあった青二が東映とトラブったんだ。ポケモンも、どうせそんなの売れない、とその仕事を蹴った。そこで東映が代わりに声をかけたのが81だった。そしたらポケモンが大当たりだろ。青二もまさかあれがそんなに売れるとは思ってなかったんだろうな。
 
ポケモンをきっかけに、今まで青二が抑えてた東映の仕事が全部81中心に行くようになった。するとアニメに強いというイメージで、他のアニメの制作からも声がかかる。青二が勢いをなくしていったのは、そういういきさつがあるんだ。で、81もアニメに強くても外画にはまだ弱かったんだが、外画系のとこと合併したらしくて、それにも強くなった。
 
 
 
アニメに強い
 
外画に強い
 
おまけにNHKには
絶大な信頼を持ってるときてる。
 
 
だから皆81に行きたがる。気が付くとジュニアジュニアと呼ばれる連中を抱えるほどに、これまたでかくなり過ぎてしまった。
 
ところが不思議なことに、81に限っては、今までこういったゴタゴタを全然聞いた事がない。そろそろ此処にも何か来るのかなあ、と思ってさ。
 
それとマウスプロモーション。実はあそこ、デスクが上と衝突して実力ある営業がやめていったらしいんだ。だからそれを機に事務所を移籍するという奴が出てきてるみたいなんだ。社長も会長になっちゃったし、あれだけ影響の大きかった江崎さん(元・社長)の力の及ばない事務所って、この先どうなんだろう、という感じもする」
 
 
 
 
 
 
声優事務所に歴史あり。
役者の移籍にも理由あり。
 
 
「なんで声優さん、事務所変わっちゃったのかなあ」
 
 
という疑問のある方もいると思いますが、色んな事情があるようです。
コルトはセクハラに耐えかねてやめましたが^^;
上記には以前お話した、宗教問題で内部分裂気味の事務所も含まれています。
 
 
 
 
 
 
しかし、移籍したところで、事務所が大きくなるとまた声優によって仕事のある、なし、の差がはっきりと出てくる。
コルトも昔合同オーディションで俳協のマネージャーさんに自分のナレーション聞いてもらったところ
 
「うちはナレーター多すぎてこれ以上いらないんだ。
それに貴方の声はうちにいる某所属声優とそっくりだし」
 
と言われたことがある。
競合が多くなると当然、一人に行く仕事は分担され減っていく。
講師いわく、実は所属声優そのものが新人で競合するタイプが増えるのを嫌がり、その人が自分の処に移籍しようとすると
 
 
「自分の仕事が減るから、あいつは入れるな」
 
 
と役者がデスクに要望するケースもあるそうだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ところで声の競合についてのエピソードをひとつ。
「ちびまる子ちゃん」のお父さん役の屋良有作さん。
素顔ものほほんと、ジョージ秋山の「浮浪雲」を地でいくような方。
声優には「デモテープ」といって自分の声のイメージキャラ性を制作側にアピールするためのテープ制作があるが、屋良さんはそこで2(二枚目のこと)を狙ったような声を入れてるそうだ。
 
講師が
 
「お前は3(三枚目)なんだから、2なんてやってどうすんの」
 
と聞いたところ屋良さんは
 
「そうなんだよ。何故かオレには3ばかり回ってくるんだ。でも、オレはここで2が出来るんだ、ということをアピールしておきたいんだ」
 
と語ったそうである。いわずもがな、声が競合になっても、別の役で狙えるように引き出しを増やしておく為。
 
それとは別に現場でもキャラ同士が会話するシーン、主役と声が似ていたら脇役の方が「違う声でやってくれ」と変えられる。こちらは個性の殺し合いを防ぐ為。だから出来る声優は声幅を広く持ち(つくり声ではなく、音色感)、どんなイメージの声でも対応出来るようにしています。
 

PAST INDEX FUTURE

inserted by FC2 system